野良攻略の布陣-2野良攻略の布陣−1で、さきイカを買ってきました。
その後、窓の戸に片手が届く位置に腹這いに
なりました。
そして、さきイカの袋を大きな音を立てて開封し、
ムシャムシャ食べて鼻の穴からネコ寄せの
狼煙(のろし)を上げました。
これでほぼ“おびき出す”という意味では
完成しています。
さてここからは応用編です。
さきイカをムシャムシャよく咬んで、
鼻の穴から狼煙を上げながら、片手に
1本のさきイカを“持ち”ます。
ここ、ポイントです。
地べたにさきイカを置いてはいけません。
地べたに置くと、“サッ”とかっさらわれて
逃げられてしまいます。
野良の本領を発揮されたら、人間は
手も足も出ません。
サザエさんのように、ほうきを持って
追いかけるのだけは避けたいところです。
持ちます。さきイカを片方の手で。
そして、伸ばします。
持った手を、できるだけ自分の頭から
遠くの位置まで離して伸ばします。
狼煙を絶やさないよう注意して。
最後は待ちます。
鳴かぬなら鳴くまで待とうの家康に
なったつもりでムシャムシャ食べながら
待ちます。
フフフ。来ましたよ。
予想通りゆっくりと、あたりを警戒しながら
近寄ってきます。
伸ばした手の指先でつまんださきイカに
焦点がバッチリ合ってます。
ジリジリという音が聞こえそうなくらい
焦点を合わせています。
一歩進んでは止まり、また一歩進んでは
止まりを繰り返し、ジワジワと距離を
縮めてきます。
いよいよ近づいて来て、鼻先をさきイカの
先端にくっつけました。
まだです!
ここで動いてはいけません。
ロダンの考える人の銅像になったつもりで
ジッと待ちます。
まずはとにかく一口食べてもらわなければ
いけません。
ほら、食いつきました。
食いちぎって二〜三歩下がった位置で、
ハシュハシュ言いながら食べています。
ここからが最終戦略です。
ハシュハシュしている間に、伸ばした手を
50〜60cmほど部屋の中に移動させます。
ネコが完全に部屋へ入りきる距離まで
移動させます。
ネコはもう一回来ます。必ず来ます。
気をよくしているのと、何も起こらなかった
多少の安堵も手伝って、必ずもう一回来ます。
ほら、きました。
でも、さきイカの位置を見て「?」、
一瞬たじろぎます。
ここからネコの葛藤が始まります。
ハムレットの一節、
「行くべきか、行かざるべきか、それが問題だ」
が、繰り返し頭にこだましている状態です。
(というふうに見えるだけです)
そんなネコを見ながら、心で念じます。
「勇気を持て、野良よ。おまえは何故さっき
このさきイカを食った。
それは私欲に負けたからではあるまい。
おまえに眠っていた勇気が、魂の叫びが
おまえを前に押し進めたのではないか。
そう、あの時の勇姿をもう一度見せてくれ」
などと念じます。
(ネコがさきイカに食いついたのは、
私欲に負けたからに他なりませんけどね)
念が通じたのか?ネコは踏み出します。
ゆっくりと部屋へ入ってきて、先ほどと
同じようにさきイカに食らいつきます。
その時のネコの心は、
「もうどうにでもしてくれ」という
捨て鉢な心と、
(捨て鉢の意味は上司に聞いてみて)
今までや“けっぱち”であることで
保ってきた自分のアイデンティティが
崩壊してしまう恐怖
が、入り交じった状態です。
そんな不安定な状態のネコを見つめつつ、
シッポを含めて完全に部屋に入った事を確認し、
食らいついて、食いちぎろうと目を閉じた瞬間、
目を閉じた瞬間です。
もう片方の手で窓の戸を“勢いよく”閉めます。
躊躇してはいけません。
ここで躊躇すると、気配に気がついて
反転したネコを挟んでしまいかねません。
そうなったらお互いに不幸です。
そうならないため、最初から窓の開け方は半分
くらいにしてください(って何の注意書き?)。
その後はご想像通りパニックになります。
カーテンに向かってジャンプしたり、
違う部屋に逃げ込んだり、棚やタンスの
上に飛び乗って上のものを落としたり。
それはそれは大パニックです。
そこで慌ててはいけません。
ものを蹴落とされても、たたんだ洗濯物を
無茶苦茶にされても、決して腹を立てては
いけません。
なぜかって、自ら招き入れたんですから。
追いかけてもいけません。
ここは完全に無視です。
そこには“何もいない”かのように振る舞います。
暴れるだけ暴れると、そのうち多少落ち着いて、
物陰に隠れてジッと動かなくなります。
この時のネコの心はこうです。
「まてよ、今まで自由気ままに生きてきたじゃないか。
誰彼に遠慮せずに、自由に。
できないことはないと思っていたのに。
でも、どうすることもできないことってあるんだろうか」
現実にどうすることもできない自分を見つめながら、
物陰に隠れて思案します。
ふうてんの寅さんが寅屋から一歩も
出られない状態と似ています。
そうなったら、そこから少し離れた場所に
だんご、もとい、餌と水を入れた器を置いて、
また無視です。
もちろんトイレも用意します。
その後も何事もなかったかのように
振る舞います。
1週間もすると落ち着きます。
それでもこちらからは近づかず、ネコが何かを
要求するまで今まで通り振る舞います。
要求が来た時だけ応じる。
こうした事を繰り返すと、野良だったネコが
家のネコとなります。
すっかり居心地のいい場所だと
思ってくれます。
こうなったら、外に出しても戻ってきます。
気の長い事ですが、野良は警戒心が強いのと、
捨てられたりして心がささくれているので、
気長に接することがポイントです。
野良の攻略法はこれでおしまい。
長すぎましたね。
野良なんて攻略しないよと思われるかもしれませんが、
癖のある人や、やんちゃ坊主との接し方にも通じる
ところがありません?
いえ、閉じこめると言うことではありません。
接し方です。
要求があった時だけ応じる。
もちろんその要求に応えられない時もあります。
その時は正直に「ダメ」といいます。
そっぽを向かれても、フーッと牙をむけられても、
ワーワー騒がれても、
できないことは「できない」と応じる接し方です。
素直にね。
例えそれがネコでも人でも、彼氏、彼女でも夫婦でも、
それが「愛情を持った対等の関係」です。
この姿勢が“関係”を円滑にします。
(いけません。また長くなりそうですので
このあたりでやめておきます)
あ、言い忘れてましたが、野良を攻略した場合、
念のため迷いネコかどうか調べる必要があります。
飼い主が探しているかもしれませんので。
話が飛んで失礼しました。
この要求する時のジャイコの声が、
「ヴギャ〜オ゛」と全てに濁点がついた
ものすごい声を出していたので、
(ジャイアンみたいな声してるな、そうだ、
名前は“ジャイアン”にしよう)
と思ったのですが、メスだったので
ジャイコという名前になりました。
それが今から7年ほど前の出来事。
今では左上の犬歯が1本抜けて、上手に
口が締まらないほどのおばちゃんに
なっています。
長生きしてほしいな。
本日も最後までお付き合い下さいまして
ありがとうございました。