朝出勤すると、受注担当の女性社員の
目が燃えています。
(うわっ、こわっ。
触らぬ神に祟りなしだね)と、
目を合わせないように席に着くと、
すっくと立って、こちらに向かって
歩いてきます。
(わー、来るなー、怖いよー、
きびすを返して誰かのところに行ってくれ、
頼むーっ、神様仏様。)
と、心で拝んだ甲斐もむなしく、
私の前で仁王立ちです。
「すごい注文書が来ましたよ」
(なーんだ、注文書か)とホットして、
「えっ、いいねえ。金額すごいの?」
と、うかつにも普通のリアクションを
取ってしまった私。
「
すごい注文じゃなくって、
“すごい注文書”です」
「・・・・・?」
抑えてはいても、その闘志みなぎる発声の
良さに気圧されてよく見ると、その
“すごい注文書”であろう1枚のA4用紙を、
引きちぎれんばかりに胸に押し当てています。
「そ、それ?」
「はい」の返事と同時に、私の机の上に
まるで鉛の板でも置くように、重そうに
そして慎重に広げて見せました。
そこには、HPの注文フォームから
注文してきた注文書が印刷されています。
(普通の注文書だけどな・・・)と
上から「注文内容」「支払い方法」「会社名」
と記入欄にサッと目を走らせ、
最後の「備考欄」のところで
視線が釘付けになりました。
備考欄には
「要望」とあり
-------------------------------------------------
1.請求書を送付してください。
2.メールアドレスを入力の必須条件にするな!
3.過去に御社から品物を購入した顧客に、名前住所等の
データを再入力させるな!
-------------------------------------------------
ご丁寧にビックリマーク「!」まで付けています。
「・・・・。」
数秒間理解できませんでした。
新しい出来事に脳がシャッターを
降ろしてしまったという感じでしょうか。
脳が、過去のどの記憶をたぐっても、同じ
事例が見あたらず、フリーズしてしまった
のかもしれません。
恐る恐る顔を上げ、彼女と目が合います。
燃えています。星飛雄馬状態です。
今にも「父ちゃん」と叫び出しそうな勢いです。
(星飛雄馬、知らなかったら上司に聞いてみて)
そして、
「ここも見てください」
彼女の指さす先は、メールアドレス記入欄です。
(指が微妙に震えているのが怖さを増長させます)
気が付きませんでした。
@マークの先、通常名前とかイニシャルのような
ものが入る場所。
そこには、
「×-××××@・・・」
と、これも見事ご丁寧に
「×(バツ)」を連続で
打ち込んでいます。
勇気を奮い起こして、再び彼女の目を見ます。
彼女の目は語ります。
(
私がやって、いいです、よね)と。
そうして下さい。お願いします。
でも、どうやって連絡を取るんだろうか・・・。
つづく。
長くなりそうなので、ここまでにします。
続きは次回に繰り越します。
次回は、ちょっとしたおまけ情報付きです。